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コラム

建築デザインの素 第35回
ホキ美術館が学会賞に選ばれなかったワケ

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。


■日本建築学会賞とは

今月は、建築賞のことを書きたいと思う。

建築家の北山恒さんが、「建築雑誌」の最新号の特集、「建築賞を考える」(写真1)の巻頭討論会の中で、僕が設計し応募した「ホキ美術館」を、なぜ2013年の日本建築学会賞(作品)に選ばなかったのかを、明確に語ってくださっている。これは本当に大変なことだと思う。

僕ら建築家にもいわゆる「賞」をいただく機会がある。中には複数の作品を通じて社会の中に形成された建築家の業績に対して与えられることもあるが、多くの賞は、設計した「作品」に対して賞が与えられる。受賞自体が大変名誉なことはもちろんだが、それよりも何よりも、建築のデザインという絶対的評価を下すことが難しいものを作る立場として、自らの仕事に第三者の立場から一定の評価をいただく稀なる機会であり、自らの立ち位置を客観的に確認できる意味からも、受賞は大きな意味を持っていると僕は思っている。

数多ある建築賞の中でも、常に審査が難航し、最も受賞が難しいと言われているのが、僕がホキ美術館で応募し、落選した「日本建築学会賞」(作品)である。

日本建築学会は、日本の建築アカデミーの中心であり、建築雑誌はその会報誌であるから、その場で、当落を翻す意見を自らが発したと表明されることは、単に勇気の有無といったものを超えて、改めて北山さんの学会賞に対する並々ならぬ責任感を感じるものであった。同時に僕にとっては、落選したものとして聞きたかったことが聞け、ここ数年の胸のつかえがとれた思いがするものでもあった。

■木材会館、ホキ美術館、NBF大崎ビル

木材会館(写真2)が竣工した翌年の2010年、新建築をはじめとしたいくつかの建築雑誌が表紙に取り上げてくれたり、日々多くの見学希望が寄せられたりなどそれなりの手ごたえを得ていたため、「学会賞に応募してみたい」と思い始めていた。ただ過去10年の記録を遡っても、僕らのようないわゆる組織設計事務所所属する設計者の受賞例はわずか1例であり、また賃貸オフィスビルでの受賞は皆無でもあり、躊躇していた。

しかし翌年には社外からの推薦もいただき、2012年の日本建築学会賞に、「都市の大型建築における木材の復権」をテーマに初めて応募した(共同設計者のカツヤと連名)。幸いにも現地審査対象に残り、審査員に直接作品を見ていただくことができたのだが、最終的には落選。受賞枠3つに対して、2012年の受賞作は2作と発表され、「枠が余っているにもかかわらず、入賞ができなかった」ほど、自らの作品の出来が悪いのかと思うと、正直ショックは大きかった。

そしてその翌年の2013年には、ホキ美術館(写真3)で「現代美術における、写実絵画の価値向上」をテーマに応募(共同設計者のナカモト、スズキ、ヤノと連名)。ここでもまた現地審査に残ることができたが、(北山さんの説明によれば、一度は受賞に決まったようでもあったが)最終的にはまたも落選。加えてこの年は、受賞作品なしと発表され、ショックはさらに募った。

もちろん、建築雑誌には受賞作該当なしの説明はなされているのであるが、なにやら受賞作品なしの経緯が今一つつかみきれず、それが胸のつかえとなってしまった。たまたま、同じく現地審査まで残っていた小嶋さんとお会いする機会があり、確か「なんかすっきりしないよね」といった意味の言葉を交わしたことをかすかに覚えている。

性懲りもなく、その翌年に応募したNBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎 写真4)で、運よく2014年に学会賞を受賞することができた(共同設計者はハトリ、イシハラ、カワシマ)。これで表面的にはショックは消えたのだが(共同設計者のショックは消えないだろうし)、どこかに胸のつかえが残っていて、それがたまにうずいているようだった。

■審査基準を語る難しさ

「建築賞を考える」特集の中で私が担当した「グッドデザイン賞について」のページにも書いたし、他の寄稿者たちも繰り返し言っていることであるが、建築賞において重要なことは、受賞結果の発表だけではなく、当落を含めた審査過程や、そこで形成された審査基準自体をも公表していくことと考えている。当落の結果以上に、なぜ当落へと至ったのかが知りたいし、知って意義あることなのだ。

しかしこれもまた、立場が変われば、言うは易し、行うは難し、である。最近では僕自身が、グッドデザイン賞のみならず、日本建築学会賞、JIA環境建築賞、東京建築賞など、複数の建築賞に審査する側で関わる機会が増えている。これらすべての場で、応募者や落選した方々になぜ自分はその案を落選させたのかを、きちんと伝えられているのだろうかを自らに問うと、途端に怪しい気分になってくる。落とした理由を客観的に説明するほど、難しいことはないに違いない。

今回の北山さんの正々堂々とした発言と姿勢に、深く感銘を覚えるとともに、御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。この話の続きは、また助手席に乗せていただいたときにでも続けさせてください!


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▲写真1:建築雑誌、Vol.132 特集「建築賞を考える」の表紙。(クリックで拡大)

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▲写真2:木材会館(2009年竣工、Mipim Asia受賞)。(クリックで拡大)

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▲写真3:ホキ美術館(2010年竣工、JIA建築大賞受賞)。(クリックで拡大)

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▲写真4:NBF大崎ビル(2011年竣工、日本建築学会賞)。(クリックで拡大)





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