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コラム

建築デザインの素 第21回
パブリックスペースについて考える(2):「道」

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



■広場か道か

建築を学んだ人ならば必ず手にする名著の1つに、芦原義信の「街並みの美学」(1979年)がある。都市をパブリックスペースとしてデザインすることの重要性を説いた最初のまとまったテクストと言えそうだ。これを読みつつ、「確かに日本には、アクティビティを伴った道はあるけれど、アクティビティに溢れた広場は乏しいな」と感じたことを思い出した。

同じく、建築を学ぶものであれば必ず手にする世界的な都市デザイン論の名著「都市のイメージ」(ケビン・ローチ、1960年)には、都市のデザインに際して、都市を次の5つのエレメントに分けて捉え、再構築することが提唱されている。

・パス
・ノード
・エッジ
・ディストリクト
・ランドマーク

パスは道に相当する。面的な広がりに相当するディストリクトとなると、下町の住宅群や都心部のビル街区といった「実体」としての領域は頭に浮かんでくるものの、少なくとも日本においては、それが反転した空間としての「広場」はあまり思い浮かばない。ましてや、ベネチアのサンマルコ広場やシエナのカンポ広場のような、空間でありながらランドマークとなり得る広場はほとんど思い当たらない。

日本のランドマークといえばもっぱら、社寺仏閣や、東京タワーやスカイツリーといったような実体としての建築が担っている状況である。歴史的な門前町や表参道など、道とその賑わいは思い浮かぶものの、日本の都市空間からは広場とその賑わいのイメージが思い浮かびづらい。

■広場の歴史とリテラシーがない

広場の原点をギリシャ時代の「アゴラ」に求めれば、すでに紀元前にギリシャでは建築に挟まれた空間に都市的なアクティビティが形成され、残余空間でありながらアゴラとしてアイデンティティを獲得していたわけであるし、ローマ時代に至ってはそれが計画的にかつ明確なジオメトリを伴った空間、「フォルム」として、都市的アクティビティの中心を担っていた。僕が内々、六本木ヒルズの毛利庭園に面した商業ゾーンのデザインの下敷きとして、その設計者であるジョン・ジャーディが参考にしたと思っている「トラヤヌスのフォルム」ができたのは、3世紀のこと。なんとローマでは、1800年前にすでに六本木ヒルズのような商業空間とアクティビティが形成されていたことになる。西洋の人々は、長い歴史の中で、広場とそれをどう使ってアクティビティを生み出すリテラシーも学んできたのだろう。

日本の都市空間の中で広場に対するイメージが弱いのは、西洋に比べて広場に対する歴史が浅く、それを使いこなし賑わいをもたらすリテラシーが足りないからだろう。

■后海と歩行者天国

広場よりも道に人々のアクティビティが集まっているのは、日本に限らず東アジアに共通する傾向のようにも思える。例えば中国や韓国の代表的な広場といえば北京の天安門広場(1954年)やソウル広場(21世紀)だと思うが、歴史においても人々の賑わいという意味においても、日本の広場同様、西洋の広場のそれに比べれば大きく見劣りがしてしまう。

一方でパブリックスペースとしての道という視点からみると、東アジアの国々にも見るべきものは多々ありそうに思える。

先にも書いたが、歴史的な門前町や、現代のものでも表参道など、素晴らしい例は多々ある。アクティビティという側面から見ると、全国に展開されているアーケード街(1950年~)や1960年代に始まる「歩行者天国」は、「縁日」(明治時代には庶民の一大アミューズメントイベントだったそうだ)の歴史を持つ日本に相応しい素晴らしい道の使い方の発見だと思う。

アジアに目を向ければ、北京の「后海」(1990年~)などは、日本においては未だつくり出せていない、道をベースとした魅力的なパブリックスペースづくりの事例として学ぶところが多々あるように思われる。

こうした優良なパブリックスペースとしての道づくりを実践しながらも、新規の大型開発で素晴らしいパブリックスペースとしての道が生み出せていないのが残念であるし、今後のアジアにおける都市つくりの大きな課題といえるのではなかろうか。

■AROD?

アジアにおいても、広場のリテラシーは時間をかけじっくりと学んでいく必要はある。しかし同時に、これまでの歴史とリテラシーを生かして、パブリックスペースとしての道のデザインやアクティビティの醸成に力を入れて、歴史や伝統を現代に生かし切った「賑わいあふれる道」の決定打は生み出す必要がある。

そのためには、事業者の熱意や、デザイナーの想像力も必要であるが、都市つくりである以上は、同時に社会制度の充実も必要である。

現在の都市計画上の諸制度の中心は、アメリカのインセンティブゾーニングを輸入し日本的にアレンジした、「公開空地」といった広場状の空地の確保に対して床面積などのボーナスを与え誘導するものがベースになっている。「しゃれた街並みづくり推進条例(2003年)」といった都市のアクティビティに目を向けた誘導も誕生しているが、道とそこでの都市的アクティビティを誘導し、都市づくりや都市のパブリックスペースを誘導していくような、Activity on the Road Oriented Development = ARODといった視点と、それを支える制度が、東アジアに魅力的なパブリックスペースをつくるためには必要そうだ。


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▲写真1:写真1:京都の伝統的な街並み。都市的なアクティビティが消えた状態で眺めてみても、パブリックスペースに相応しい見事な景観が道に沿って形成されていることが分かる。(クリックで拡大)

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▲写真2:香港の細街路にあふれるアクティビティ。現代でもアジアの多くの都市では、道が都市的アクティビティを支える重要なパブリックスペースとなっている。(クリックで拡大)

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▲写真3:北京の后海の様子。歴史的な水辺空間に1990年代以降に商標が展開され、道を描くとした魅力的なパブリックスペースが形成された。魅力的なナイトスポットとして多くの人々が詰めかけている。(クリックで拡大)

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▲写真4:渋谷の交差点にあふれる人々。こうしたアジア的なパワーを如何にして殺すことなく取り込み、道を魅力的なパブリックスペースとして計画しデザインしていくかが、アジアにおける都市デザイン、建築デザインの大きなテーマ。(クリックで拡大)





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