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コラム

建築デザインの素 第12回
大型建築の外観にこだわる:2

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



前回は、日本建築を歴史的なものから現代のものまでを貫き、外観を造るうえで暗黙の内にテーマとなっている5つのボキャブラリー、「内外の連続」、「状況に合わせた変化」、「多目的性」、「あらわし」、「数寄」を紹介した。

今回は、自作の中でこの5つのボキャブラリーを僕自身がどんな形で外観へと展開してきたかについて書いてみたい。

■我々の試み

これら5つのボキャブラリーは、最初は伝統的日本建築の中で見いだされ、現代では比較的小規模な建築の中で展開され、そして21世紀に至り、徐々にではあるが大型のビル建築でも試行され始めたように見える。その理由の1つは、建築設計におけるコンピュテーショナルなデザイン手法の利用の拡大でなかろうか。設計上の課題をアルゴリズムと変数で捉えたアルゴリズミックデザインの登場と、3次元設計であるBIMの普及と、BIMの利用により各種コンピュータシミュレーションが容易になり、さらにはこれら三者の連動により、複雑に絡み合った諸条件の中から建物の形態とファサードとを生成することが実務レベルで可能な状況となって来たからであろう。

面白いことに、日本以外の国々では、コンピュータを用いた3次元設計は複雑でアイコニックな形を設計し生産可するために用いられることが多いのだが、日本では同じ手法が、複雑で多様な条件からシンプルな形状と、それを成立させる革新的なファサードシステムの探求へと結びついている。その理由は、「大型建築の外観にこだわる(1)」で論じた日本人の美学によるところが大きいのであろう。この美学に根差した日本的なファサードづくりが、今コンピュテーショナルな方法によって、ビル建築の中で可能になり始めた。

ここでは、ここ10年間における日建設計の我々のチームの、コンピュテーショナルな設計手法を用いたファサードシステムを紹介する。

■「神保町シアタービル」

2つのシアターからなる施設で、外観は、日本の厳しい斜線制限の中でどのような形態であれば延床面積を最大にできるかを目標として、コンピュテーショナルな手法で「生成」した。構造はRCであるが、外装の三角形に張られた鉄板が地震エネルギーを吸収するダンパーとして働くことで安全性を高めている(写真1)。

同時にRC躯体との隙間の空気を断熱層として使用している。また、空気温度が上昇した場合にはオイルダンパーが作動して温まった空気を外部に放出する仕組みになっている。奇妙な形のファサードであるが、多様な意味を持った形状となっているのだ。この設計を実現したのがBIMによる三次元設計と、それを用いた3次元のCFD解析であった。

■「ホキ美術館」

ここでは、鋼鈑構造体をそのまま建築の内外装の仕上げとすることを試みた。高価な鋼鈑構造を内装にもファサードにも用いることで、構造躯体以外の工事費を大幅に削減し合理的なコストで実現している(写真2)。さらに、鉄板構造躯体そのものを空調や排煙ダクトや、LED照明器具のケースとしても用いることで、鉄板構造を徹底的に使いまわした。懸念させたヒートブリッジによる結露や熱損失が問題になることがないことをBIMを用いたコンピュータシミュレーションで事前に予測できなければ、実現は不可能だったかもしれない。

天井照明の穴は、照度分布と鉄板の補強リブを考慮しつつ特定のパターンを形成することがないように配する必要があったが、これについては専用のプログラムを書きコンピュテーショナルな方法でレイアウトパターンを生成した。生成したデジタルデータをコンピュータ制御の工作機に直接流すことにより、ランダムでありながらも性規正しく整然と並べた場合と変わらぬコストで施工ができた(写真3)。

ちなみに内部の絵画は、鋼鈑の躯体にマグネットで取り付けられ、レイアウトフリーとなっている。

■「木材会館」

木材を不燃処理することなく外装、内装、各部の二次構造部材、そして最上階の構造体に用いたオフィスビルである(写真4)。建築基準法に規定されている以上の安全性を確保するため、各階にバルコニーを設けて、それを直接地上につなぐ屋外の専用階段を設けている。バルコニーに柱を配することにより、ワークプレイスには一切柱型が出ない使いやすい計画となっている。

バルコニーのスラブと柱、さらにはそこに加えられた木製の竪庇の組み合わせが、彫りの深い特徴的なファサードが生んでいるが、これは同時に日本の強い西日を遮るシェードともなっている。常時は縁側のようにオフィスで働く人々の憩いの場であり、火災時などの非常時には安全性の高い避難ルートとなっている。

こうしたデプスのあるファサードの設計とシミュレーションには、BIMが大きな役割を果たしたことは言うまでもない。さらに施工にあたっては、設計時の三次元形状をCNC工作機に転送して、圧縮力も、引張力も、そして剪断力も伝え得る手の込んだ伝統的な継手をデジタルファブリケーションすることで、合理的な価格で現代に復活させた(写真5)。

■「ラゾーナ川崎東芝ビル」

1辺が81m角のキューブ型の大型オフィス。ヨーロッパ諸国とは異なり、日本では深さ16mから25m程度の大空間がオフィスとして好まれる。またオフィスはPCなどの発熱により1年を通してほぼ冷房モードで運用されるため、ファサードの役割は、まず太陽からの直達光を遮りつつ、オフィス外周部のために必要な天空光を取り込むことである。その結果、日本ではこうした特殊な形状のオフィスが成立する(写真6)。

外装のパターンは、そこに配された空調室外機の排熱効率や、近隣ビルの影と太陽角度など複数の要因がパラメータとなり決定される。さらには表面に配された極薄穴あき金属ルーバーのヒートシンク効果と、その裏面にある比較的熱容量の多いコンクリートパネルの組み合わせにより、太陽光によって温まりにくく、かつ微風で冷えやすい、ヒートアイランド効果を抑制するファサードシステムを実現している(写真7)。設計には全般的にBIMとコンピュータシミュレーションを用いることで、ユニークなファサードを持ちながらも、建設費は通常オフィスビルのほぼ50%のコストで収まった。

これらのプロジェクトを通して獲得したノウハウを集めて設計したのが、NBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)の外装、「バイオスキン」である。

次回は、「大型建築の外観にこだわる(3)」としてバイオスキンを取り上げ、コンピュータを用いた適材適所のものづくり「マス・カスタマイゼーション」について書いてみたい。

(つづく)

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▲写真1:神保町シアタービルのファサード。表面を負う鋼鈑は、地震エネルギーを吸収するダンパーとしても働く。(T. Yamanashi + T. Hatori / Nikken Sekkei)。(クリックで拡大)

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▲写真2:ホキ美術館のファサード。鋼鈑の構造体が「あらわし」となり、外装としても、内装としても、設備ダクトとしても使われている。(山梨知彦+中本太郎+鈴木隆+矢野雅規/日建設計)
(クリックで拡大)


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▲写真3:ホキ美術館の内観。照度分布と構造体のピッチを考慮しつつランダムに見える照明配置をコンピュテーショナルな手法で生成し、そのデータを用いたデジタルファブリケーションを行うことでリーズナブルなコストで実現した。(写真:渡辺瑞帆)(クリックで拡大)

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▲写真4:木材会館のファサード。内外装に木材を用いつつも、合理的なコストで実現されたオフィス。(山梨知彦+勝矢武之/日建設計)。(クリックで拡大)

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▲写真5:ファサードは現代の縁側となって、人々に憩いの場を提供しつつ、西日を切る役割も果たしている。すべての木材はデジタルファブリケーションの手法で組み立てられている。(クリックで拡大)


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▲写真6:ラゾーナ東芝川崎ビルのファサード。81mの立方体型のオフィス。外周をバルコニーがめぐり、その外側に、設備機器は位置と窓からの日照の取得を考慮した結果から生成された複雑なパタ-ンのルーバーが配されている。(野村不動産設計部、山梨知彦+恩田聡/日建設計、大林組)。(クリックで拡大)


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▲写真7:ファサードのクローズアップ。極薄の金属ルーバーがヒートシンクとなり、微風で放熱し、建築に熱をため込まない仕組みになっている。(クリックで拡大)


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