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コラム

建築デザインの素 第6回
マスプロダクションに明日はない?
その1:ICTに学ぶ!

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。


■マスプロダクションの次に来るモノ作り

僕は、かなりのコンピュータ信者だ。コンピュータがもたらした技術、ITとか最近ではICT(Information and Communication Technology)などと呼ばれている技術は、後の時代から見て、火の発見(ちょっと大げさすぎるかな)や活版印刷の発明に匹敵するほどの大きな革命的技術と言われるのではなかろうかと信じている。さらには、それがもたらすICT革命は、ルネサンスや産業革命に匹敵する大きな変革を人類に与えようとしている、などとも思っている。

残念ながら、根拠はない(笑)。かといって確信があるわけでもない。そんな大変革の時代に、自分自身が生きているって考えた方が面白いから、そう考えているだけ。

とはいえ、デザインやモノ作りが仕事なので、そんな仕事を通してうっすらと感じているものはある。それはモノの作り方の変化だ。20世紀は、19世紀末に産業革命によってもたらされた工業技術により、均質なモノを、素早く、大量に生産すること、すなわち大量生産=マスプロダクションが神であり正義であった時代だ。それが21世紀となり、僕らの生活のいたるところで、マスプロダクションから何か別の作り方へと、モノ作りが急速にシフトしているように感じている。そしてそのシフトをもたらしているのが、コンピュータによるICTなのではなかろうかと僕は考えている。

■自動車産業のマスプロダクションに学ぶ

現代でも多くの建築、特に大型のビル建築は、マスプロダクションが根底を支えている。この始まりは、19世紀から20世紀にかけての近代建築を生むさまざま動きの中で形作られたもので、1つの原点に返ることはできそうもないが、それでも象徴的なイベントはある。近代建築の巨匠の1人、ル・コルビュジェが1914年に発表した「ドミノシステム」と呼ばれる、同一形状の柱とスラブからなる工業化された建築の原型がそれだ。

コルビュジェが、当時最先端の大量生産技術であったT型フォードの生産ラインに刺激を受け、それまで手工業に甘んじてきた建築の生産に、大量生産の技術と美学を持ち込むことで、大きく変革しようとした試みといえるだろう。矩形のスラブの間に均等に同一の柱が並ぶ様子を見れば、今日のオフィスビルや商業ビルの多くが、依然としてこの100年前に提示された、大量生産の美学に支えらえたモデルの延長線上にデザインされ、生産されていることは、簡単に分かるだろう。

しかし、自動車とは異なり、建築は本来「一品生産」されるものだ。試しに丸の内あたりを30分もぶらついていただければ、どのビルも一見同じように見えるものの、すべてのビルが微妙に異なっており、一品生産されたものであることが分かる。生産性が売り物のプレファブ住宅を見ても、実は多くのオプションメニューを用意してあり、事実上は個別一品生産になっている。唯一、工業生産的な同一形状の繰り返しで作られた公団、公社によるいわゆる団地も、今では過去のものとなりつつある。

建築は、自動車産業とそのマスプロダクションに代わる、生産の技術と美学の手本を求めている。

■DTP(デスクトップパブリッシング)に学ぶ

こんな状況の中、建築の生産が手本とできそうに思える生産技術の1つが、DTPであるのではなかろうか? と僕は考えている。

DTPは、1980年代初頭に、Macintoshの誕生とともに、これまでは大量生産で手間がかかる印刷物作成の工程を、コンピュータ上に移すことで、その工程を革命的に変化させた技術だ。こんなことは、pdwebの読者にならあえて説明するまでもないことだろう。読者の日常生活が、すでにDTPと密接に結びつき、恩恵を感じていらっしゃるはずだ。

グーテンベルグの活版印刷(1450年ごろ)以来長く、大量生産の権化ともいえた印刷技術は、DTPの誕生により、個々人の要請により、簡易でありながら正確に、そして最小の関係者のかかわりの元に、必要少量部数を生産できる技術、いわゆるオンデマンド印刷へと大きく変貌を遂げた。それだけではない、DTPがコンピュータ上でデジタル情報として編纂されていたため、それは瞬く間に電子出版やSNSを生み、それこそ自分一人しか見ない日記すらが当たり前のようにワープロで打たれる時代となった。

面白いのは(失礼!)、新聞や雑誌など旧態然とした紙ベースの大量生産にこだわる出版物が低調なそのすぐ隣で、電子出版にかかわる企業が世界最高益を上げているという事実。

DTPが印刷界にもたらしたこんな変革を目の当たりにすれば、本来一品生産である建築の生産のお手本を、自動車産業からDTPへとシフトしたくなるのは当然だろう。

ここだけの話であるが、僕が建築を設計するうえで、デジタルファブリケーションやアルゴリズミックデザイン、そしてBIMなどICT技術の導入にこだわっているのは、建築の設計、生産、そして管理をDTPを手本に、本来の一品生産に戻しつつ、高品質でありながら、経済的にも合理的なものに大変革したいと思っているからなのだ。

■マスカスタマイゼーション

こうした、マスプロダクションに代わり、ICTをうまく利用することで、個々人の要求や、個別のシチュエーションに即したモノづくりを、期待と希望を込めて「マスカスタマイゼーション」と呼んでいるようだ。正に期待と希望を大きく担い、マスカスタマイゼーションは、明確な焦点を結ぶことなく、今はひたすら拡大解釈をされている状況にある。

次回のこのコラムでは、「マスプロダクションに明日はない? その2:マスカスタマイゼーションを考える」と題して、建築におけるマスカスタマイゼーションの可能性を探ってみたい。


 

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▲近代建築の巨匠、ル・コルビュジェ。(クリックで拡大)



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▲ドミノシステム(1914年)。(クリックで拡大)

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▲T型フォードの生産ライン。(クリックで拡大)


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▲デスクトップパブリッシング(イメージ)。(クリックで拡大)

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▲グーテンベルグの活版印刷機。(クリックで拡大)

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