建築デザインの素 第3回
コンピュテーショナルデザインって何ですか?(前編)
最近、コンピュテーショナルデザインって言葉をよく聞く。でもいったい何だろう。コンピュータを使ったデザインだってことは何となく語感から連想が付くけど、いつも使っているCADやCGとどこが違うのだろう? こんな疑問に対して、山梨流の「コンピュテーショナルデザインとは何であるか」について2回に分けて解説したいと思う。今回は、その前編。
[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。
■デザイナーはサボり屋
今回のテーマは、「ラクしてデザインをしよう!」という不謹慎な話、などと言うと、多くのデザイナーが聞き耳を立てるに違いない。
デザイナーは概して「サボり好き」だと僕は思っている。「地道なデザイナー」というのはあまり見かけない。人ができることは極力ヒトに押し付けて、美味しいところだけやりたがる。それがデザイナーの特質だ。もちろん稀には、地道なデザイナーもいるが、そんな人は周りのデザイナーから「職人肌」などと呼ばれて、今では絶滅危惧種扱いだ。
そんなわけで、デザイナーはすぐ人にモノを頼みたがるわけだが、最近では、頼む相手も人間だけではなくなり、コンピュータにも頼むようになってきた。そりゃそうだ。部下や後輩だってデザイナーの端くれであれば、立派にサボりたがる。そんな人間に頼むより、コンピュータに頼んだ方が、文句も言わすに働いてくれるからより具合がよい。
■コンピュータに助けてもらう
建築デザインの世界で、最も普及しているコンピュータのお助け技術と言ったら「CAD」だろう。今日では、CADなしで仕事をしている設計事務所なんてほとんどない。
そもそも、CADはComputer Aided DesignもしくはDrawingの略で、図面描きの作業をコンピュータに助けてもらい、ラクしようという代物だ。日本で建築のデザインにCADが使われ始めたのは1980年代の後半(代表的なCADソフトウェアであるAutoCADが誕生したのは1982年のことだ)。今考えると驚くような話だが、たったの30年前には、CADを使うと設計の能力が衰えるなどと老建築家たちや大学の老教授などが本気で心配して、CADの使用を禁じた時期があった。なんとも微笑ましい話だ。彼らはコンピュータの何に脅威を感じて、助けてもらうことを躊躇したのだろうか? 実はここに、今回のテーマである「コンピュテーショナルデザイン」の意義を読み取るヒントがありそうだ。
■クリエイティブな仕事だけは任せられない
サボり屋のデザイナーが唯一特別な価値を置いているものがある。創造性、つまり「クリエイティビティ」だ。デザイナーの端くれならば、クリエイティビティを発揮する瞬間だけは人に譲ってはいけないと思っている。コンピュータを使う場合ならなおさらだ。コンピュータに助けてもらう=Computer AidedはOKだが、コンピュータがクリエイトする=Computer CreatedはNO、ありえない! ということになる。
最初はCADがなんだか分からず恐れられていたが、単なる鉛筆の代用のお助けツールと分かった瞬間に、デザイナーはCADを受け入れた。
しかし今回のトピックス、「コンピュテーショナルデザイン」とは、単なる作業のお助けではない。コンピュータに、その正にクリエイト自体を託してしまおうという、デザイナーの存在の根幹を揺さぶる問題なのだ。はたしてコンピュータに創造は可能であろうか? コンピュータが創造を担えるとしたら、人間の役割は、デザイナーの役割はどうなるのであろうか?
今回は、ここまで。次回は、コンピュテーショナルデザインそのものについて、僕自身の試みを交え解説したいと思う。
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