●デザイナーにもエンジニアにも
--Fusion 360の現在のユーザー数はどれくらいですか?
藤村:マンスリーアクティブユーザー(1ヶ月間のアクティブな利用者数)でのカウントになりますが、ワールドワイドで約5万人です。ユーザー数でいえばその倍くらいになると思います。ちなみに日本はアメリカに次ぐ第2位のユーザー数を抱えており、Fusion 360のユーザー数は、現在、世界中で右肩上がりで推移しています。
--繰り返しになりますが、スタートアップ、つまりモノ作りで起業したいけど、お金があまりないといった企業ユーザーがFusion 360のメインターゲットなのですか?
藤村:Fusion 360をお勧めする利点は価格だけではないのですが、スタートアップ企業の場合、やはりソフトの価格というのは選定理由の大きなウェイトを占めていると思います。そのなかで、仮に安価なものを選択されたとして、それが最適な選択ではない場合も少なくないです。最初に不適切なツールを選ぶと結局無駄になってしまうことが多いんです。しいて言えば、「これでなんとかできる」というのは、概ね最善の選択ではないということです。
Fusion 360はソリッドモデル、サーフェスモデル、ポリゴンモデルを持っていて、それをハイブリッドにして行き来できるというメリットがあります。
履歴もオンオフ切り替えられるので、ソリッドモデルの形状修正なども可能です。今後はメッシュも入れていきますので、そうなると世界で唯一、ソリッド、サーフェス、ポリゴン、メッシュを単一プラットフォームで管理できるCADとなります。しかもスタートアップの方々には無料でご利用いただけます。
ちなみにFusion 360のスカルプト機能は、オートデスクが数年前に買収した、T-Spline for Rhinoを開発しているT-Spline社のものを搭載しています(会社はすでに統合済み)。このT-Splineによって、ポリゴンモデルがボタン1つでサーフェスやソリッドデータになるメリットは、作業効率を上げるという意味で本当にすごいと思います。スケッチして、サクっと3Dモデルにして、ポリゴンでモデリングした形状の上にスケッチをさらに描き込む。こういったワークフローも可能になりました。
コンセプトデザインや初期アイデアの段階で、自由奔放に押したり引いたりとか行うなら、時代はポリゴンだと思います。ポリゴンで作って、ボタン1つでサーフェス化。ドアノブや自転車のハンドルなど有機的な形状もすぐに作れます。
ただ現時点でのFusion 360のサーフェス機能(パッチ)はNURBSではないので、それが弊社のAliasのようなモデラーになれば完璧です。
--Fusion 360は、デザイナーとエンジニアでしたらどちらにより適していますか?
藤村:もちろん両方のユーザーに使っていただきたいです。単一プラットフォームですからデータのやり取りもスムーズで、デザイナーとエンジニアをつなぐツールとしても優れています。
--エンジン的にはInventorからの流用は多いのですか?
藤村:そうですね。それがハイブリッド化して独自の進化をしています。感覚的な比較で言えば、Fusion 360はハイエンドCADと比較して7割前後の機能やパフォーマンスかもしれませんが、通常の制作ではハイエンドCADと同等レベルのことが安価に実現できます。
さすがにハイエンドCADのような大規模アセンブリには向きませんが、パーツが100くらいの製品であれば最適なツールになると思います。例えばハイエンドCADのユーザーさんはその機能の100%を使い尽くしているでしょうか? 一部の機能だけによる簡単なモデル制作など、本来のパフォーマンスの3割程度しか使っていないようであれば、ぜひFusion 360を試していただきたいです。部分的にはハイエンドを凌駕する機能をもっています。
データの読み込みに関しては、Fusion 360は他社製も含む、主要CADのネイティブファイルを読み込むことができます(履歴は消えます)。出力も一般的な中間フォーマットには対応しています。
●解析やレンダリングも可能
--オールマイティなツールということで、Fusion 360では簡単な解析も行えるようですね。
藤村:Fusion 360はCAMや解析シミュレーションも行えます。例えば3Dデータの形状の解析を行う場合、Fusion 360に読み込んだデータであれば、解析結果の修正を元の設計者に戻すことなく、その場でFusion 360で行えます。またダイレクトモデリングを活かして、フィレットなどを実に簡単に削除していくことができます。このような機能は解析者には非常に便利なんです。
--どういった種類の解析ができるのですか?
藤村:Fusion 360では線形静解析(力)、固有値解析(振動系)、熱解析などのシミュレーションが行えます。それらに加え、今後はトポロジー最適化やCFDなども入れていく予定です。私個人の経験でお伝えするならば、デザイナーさんで解析にもすごく詳しいという方はそれほど多くはありません。ただ、この形状で無理がないかどうかの傾向は知りたいと言うのがデザイナーの要望だと思います。
例えばあるものをモデリングしたときにFusion 360はそこに力を加えて、そのオブジェクトにどれだけの力を加えるとどういう挙動になるのかを知ることができます。プラスチックであれば、変位、安全率を知ることで、形状の修正に役立てることができます。
--なるほど、上流で簡単な解析が行えれば、後工程での修正も少なくなりそうです。
藤村:その通りだと思います。Fusion 360はオールマイティでありながら、実践的にモノ作りが行えるので、企業に取ってはコストメリットが大きいと思います。それと繰り返しになりますが、クラウドを活用していただくことで、情報共有、コミュニケーションの円滑さも含めた自由なモノ作り環境にご利用いただけると思います。これは従来のCADではできなかったことです。
--ちなみにレンダリングはいかがですか?
藤村:Fusion 360にはハイエンドレンダラー「Showcase」のエンジンを用いています。静止画のレンダリングだけではなく、モーションをアニメーションとして描き出すこともできるので、アセンブリに対して動きをつけて、機構の挙動などをアニメーションで書き出し検討することができます。
|